07年10月14〜16日、『アンダーグラウンド・ブック・カフェ』にて、記念すべき10回目の『地下室の古書展』が開催されました。これまでもトークショーやアートイベントなど多彩な企画が登場したこのイベントに、今回はなんと、初の試みとなる『落語会』がお目見え。出演は落語芸術協会に所属するお三方。古典落語の本格派として人気を誇る瀧川鯉昇師匠、お弟子さんの瀧川鯉太さん、そして三遊亭小遊三門下の二つ目・三遊亭遊喜さんです。壁一面に並べられた本に囲まれながらの落語会。来場者が90人を越える「満員御礼」のなか、いざ、はじまり、はじまり! アンダーグランド・ブック・カフェ 第10回記念企画
▲会場は満員御礼! お仲入りの際には古書をじっくり選べます。 『開口一番』と呼ばれるトップバッターは、落語会に足を運んでくださったお客様を「温める」重要な役割。今回その重責を担うのは、明治大学出身で神保町界隈は馴染みが深いという瀧川鯉太さん。「落語界は階級社会。まずは見習いから前座となり、二つ目、若手真打、中堅真打、そして押しも押されもしない大看板になり、やがてご臨終となります(笑)」といった具合に、初めて聴く方にもわかりやすい解説付きで「落語の世界」へと誘います。ダジャレを織り交ぜた小噺を連発しつつ、愛嬌たっぷりの笑顔でお客様の心をほぐした後は、本日の演目『転失気』へ。 和尚さんに「てんしきを借りてこい」頼まれた小僧さんが、その意味も分からずに「てんしきを」借りに歩くものの、「もう売り切れた」とか「おつけの実にして食べた」と断る人ばかりで、何だかさっぱりわからない。しかたなしにお医者さんに尋ねると「放屁じゃ」と言われびっくり仰天。知ったかぶりの和尚に復讐するという爆笑篇に、会場はすっかりリラックスムードになりました。 ▲ほのぼのとした人柄が高座に出る鯉太さん。 三遊亭遊喜さんは二つ目になって9年目、鯉太さんよりも1年先輩の若手注目株で、そろそろ真打の声もかかろうという頃?! 丸っこい体型に丸っこい声、そしていかにも噺家さんらしい明るい笑顔が好感度大です。そして、トントントンとテンポ良く進む明快な語り口は、まさに『笑点』でおなじみの三遊亭小遊三師匠ゆずり。聴く者をとてもいい気持ちにさせてくれます。さて、出し物は人懐こい雰囲気にぴったりな『幇間腹』! 若旦那を必死でヨイショする幇間(たいこもち)の一八。鍼(はり)に凝りはじめたというこの道楽者に、たっぷりご祝儀をもらう約束でしぶしぶ打たせることになったものの、心配で仕方がない。「若旦那、鍼はちゃんと勉強したんでしょうね」「もちろん。ハリの本も夢中で読んだ」「どれです? ん? ハリー・ポッターと賢者の石? これハリの本じゃないでしょ!」やはり不安は的中し……。古典落語をきっちり演じつつ、ときおり「亀田父子」などの時事ネタを絡めて会場を沸かせました。 ▲師匠ゆずりの軽妙な口調が光る遊喜さん。 「昔は貧乏で麦飯しか食えなかったんですが、今は健康ブームで、みんなすすんで麦飯を食ってる。おかしなもんですねえ。身体にいいってんでコーリャンだの粟だの稗だの、鳥のエサになるような物ばかり食べているから、最近じゃ手を広げれば飛べるような気がしてきましたよ」と、皮肉たっぷりな話で共感を誘ったかと思うと、「噺家の真打になるにはだいたい15年ほどかかる。人殺しの時効と同じくらいですね」というブラックなセリフをポーンと投げかけ、爆笑を誘う……。古典落語の旗手と呼ぶにふさわしい実力派・鯉昇師の高座は、ふわふわとした柔らかい表情とは裏腹に、こんな辛口のジョークやエスプリの効いた小噺から始まります。そして、しだいに独自の世界に引き込まれていき、気がつけば古典落語に違和感なく入りこみ、いつしかその風情にどっぷりとひたっている……。まさに「話芸の力」をひしひしと感じるパフォーマンスなのです。 凍てつくような寒い夜、「火の用心」の夜回り番が、こっそり酒を飲んで猪鍋に舌鼓を打つという『二番煎じ』では、そのリアルな所作に見とれて、思わず「ごくり」とツバを飲み込む音が客席から聞こえてきます。そして、トリを飾った『宿屋の富』の半ば、千両の富くじが当たったシーンでは、主人公の高揚感と動揺が伝わってきて、手に汗を握りながら笑い出すお客さんも見られました。 伝統ある明大の落研出身で、この界隈とはとりわけ縁の深い鯉昇師。随所に「江戸っ子の心意気」が光る渾身の高座を、江戸の「下町文化」の中心といっても過言ではない神保町エリアで堪能した、素晴らしい一夜でした。 ▲瀧川鯉昇師匠の登場。芸歴30年を超える、珠玉の高座に酔う! 神保町ならではのイベントが体験できるこの「アンダーグランド・ブック・カフェ」。次回の情報などは、是非こちらでチェックしてみてくださいね!
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