小野員裕さん
文筆家、フードプロデューサーのかたわら、日夜、カレーライスの食べ歩き、究極のカレーづくりを追求。現在、横浜カレーミュージアム名誉館長。週刊朝日にて「魂のラーメン」も連載中。著書に「小野員裕のおすすめ絶品カレー食べ歩きガイド」(スタジオDNA)、「週末は鍋奉行レシピで」「立ち飲み屋」(以上、創森社)など。また、レトルトカレー「小野員裕の鳥肌の立つカレー」シリーズもエム・シーシー食品株式会社から好評発売中。
神保町にはカレーを呼び寄せる引力があるのか
アナクロニズム、フィロソフィー、インテリジェンス、クリエイティブなどを錯覚させる、厳かでキラビヤカな雰囲気に、単行本片手に酔いしれている若者がいまも息づいている神保町。なぜこれほどまでこの街にカレー屋がひしめいているのだろうか。 カレーを食べるという行為は一種、虚飾を排した風情があり、この神保町の飾り気のない健全な雰囲気にどこか通じる。金ピカの造形物、メッキの剥がれやすい流行物はこの街の学究的底力に淘汰され、質実で虚飾を排した食べ物、カレーライスが神保町の風情に呼び寄せられてきたのではないか。または環七に集まるラーメン屋同様、ある引力のようなものが作用してこれだけ多くの店を、この街に呼び集めた気がしてならないのだ。驚くことに、サラリーマンのオアシスであり、本来パン、バスタ類しか見かけないはずのルノアールまでもがカレーライスをメニューに掲げる有様。今後、この神保町はどのように変貌して行くのだろうか、楽しみである。