神保町紳士録Vol.8 岩波ブックセンター 柴田 信さん「神保町というグラウンドの球拾い役です」
国文学を学びに日大に通っておりました。ですから、はじめてこの辺りに足を踏み入れてから、かれこれ60年になります。校舎は水道橋駅からほど近い三崎町、実家のある千葉からJRで1時間でした。ちょうど岩波文庫の星ひとつを読み終える距離ですね。昔は「JR」ではなく「省線」と言っていましたが、若い方々には通じないでしょうね(笑)。当時の大学はどこも生徒が少なくて、勉強をするにはよい環境でした。卒論が平家物語だったので、東京堂書店や一誠堂で資料探しをしたのも懐かしい思い出です。太宰治や坂口安吾、織田作之助あたりにも傾倒していました。当時に比べれば町並みもずいぶんモダンになりましたが、全かわらないのが廣文館書店。じつに50年以上も同じ佇まいです。
じつは書店に入る前は中学校の教員をしていたんです。そこへ池袋の芳林堂書店から声がかかりました。当時の芳林堂は全国でもベスト10に入るような大型書店でね。労組問題が新聞を賑わしていた頃で、私の役目は数多い従業員の管理という重責でした。いわゆる「雇用者」と「被雇用者」の間にあるギャップをいかに埋めるかということなのですが……。私の場合はそれまで教育の現場におりましたので、「使う」も「使われる」もありません。会社は教室、店長は学級委員、クラスメートが一丸となって頑張ろうという考え方でした。これを皆さんが受け入れてくれた。職場が神保町の岩波に移ってからも、この考え方は全く変わりません。教育と同じで、スタッフの成長を長い目で見るのが私の信条です。
ひと言お願いします
神保町には新刊書店も数多いですが、なんといっても古書店さんが街の顔です。決して派手ではありませんが、この方々のエネルギーはじつに凄い。とにかくいつお会いしても本の話ばかりで、「1冊に賭ける想い」がひしひしと伝わってきます。各書店にそれぞれ専門分野があって、その道のエキスパートが揃っているのも頼もしい。職人気質なんですね。これは岩波ブックセンターも同じこと。私は、業種の垣根を越えて、少しでもそんな皆さんのお手伝いができればと思っております。たとえば、新刊書店・古書店・各大学・千代田図書館の在庫をリンクさせて、「神保町文庫」のような一大サイトができたら、面白いと思いませんか?
神保町というグラウンドにはいくつものチームがあって、さまざまなボール(意見)が飛び交います。うまくキャッチボールができることもあれば、脇にそれることもある。その球拾い役が私の役目です。とくに強力な指導力は必要ありません。「教師のリーダーシップは15p。教壇の高さでいい」、自分の原点である教員時代に悟ったこの言葉を胸に、喜んでボールを拾い続けますよ。
信山社
岩波書店の書籍在庫は日本一!同時に、専門書出版社の歴史書、人文書分野においても、他店の追随を許さない充実ぶりを誇る「専門書の専門店」。入口脇には、地域限定のミニコミ誌が並ぶ雑誌のコーナーもあり。流行に流されない独自のセレクションが溢れる店内は、本への愛情が随所に感じられます。
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