神保町紳士録Vol.2 文房堂 森絵里子「描きたくなる町並」
「駿河台の文化学院で油絵と版画を専攻していたので、学生の頃から神保町に来ていました。だから街歩きも毎日といっていいほど。
再開発が始まる以前は、典型的な下町らしい風情がまだ随所に残っていて、ただ歩いているだけでも楽しかったですね。それに、この辺りは思わず絵に描きたくなるような場所が多いんです。
美術学校に通っている者にとっては、本当に嬉しいことなんですよ。たとえば、ビザンチン様式の建造物として有名なニコライ堂。この界隈なら誰しもが一度はモチーフにしたいと思う聖橋。都会の中のオアシスといった趣きの錦華公園……。神保町界隈は私にとって、思い出深い第二のホームタウンといった感じです」
「レトロ&モダンとでもいいますか、古いものと新しいものが同居している街ですね。古書店や古美術店が並ぶ通りの裏に、再開発で建てられた近代的なビルがあります。普通ならちぐはぐな印象を受けるかもしれませんが、これが見事に調和しているんですね。落ち着いた雰囲気の中に、ピリリとした、いい意味での刺激がある感じでしょうか。ビジネス街といっても、新橋や丸の内とはまるで違うカジュアルな雰囲気です。近くに出版社や大学が多いからかもしれませんね」
「古書店さんなら小川町駅に近い源喜堂書店。和洋を問わず美術関連の本がズラリと並んでいて、見ごたえたっぷりです。御茶ノ水駅に近い製本工房の美篶(みすず)堂も大好きなお店ですね。オリジナルノートやメモブロックなど、可愛い文房具がたくさん置いてあります。画材や雑貨ならレモン画翠と、もちろん文房堂をおすすめします!」
「文房堂は、明治20年に小川町にて創業し、大正期に神保町への移転を経て以来、ずっとこの地から全国にアートを発信してきました。国産キャンバスを初めて製造・発売したのも、図案用絵具を『ポスターカラー』と名づけたのも、じつは文房堂なんです。
本社の外壁は大正時代に作られたもので、90年代に改装する際に『残してほしい』という地元の方々の熱心なすすめもあって、現在のような形になりました。店内には伝統的かつ専門的な画材や、レトロ&ポップなポストカード、そして創作意欲をくすぐる雑貨など、バラエティに富んだ品々を用意しております。
そういった意味では、古さと新しさが混在する神保町の街と同じ。大いに皆さんの想像力を刺激したいですね」
創業明治20年。日本ではじめて専門家用油絵具を製造・発売したのがこの文房堂。現在の画材全般の基礎をつくったともいえるお店です。
住所/神田神保町1-21-1
TEL/03-3291-3441
営業時間/10:00〜19:00
(ギャラリーは〜18:30)
定休日/年中無休
HP/http://www.bumpodo.co.jp/