数ある神保町の新刊書店のなかでも、とりわけ大きな存在感を示しているのが東京堂書店。その独自の審美眼にはいわゆる“読書人”も一目を置き、「山ほど出る新刊のなかから何を読んだらいいのか、ここに来れば教えてもらえる」と言い切る人もいるほど。ただ単に本を仕入れて並べるのではなく、その本の発想がいかにして生まれ、いかにして骨格ができあがって肉付けがなされ、最終的に出版にいたったかという“コンテクスト”にまでこだわるという姿勢を聞くと、それもさもありなんといったところだ。「着想から出版にいたるまでに何十年も費やした本もあります。そのディテールまでわかった上で店頭に置きたい。これが東京堂の本に対する誠意です」(佐野店長)
版元や著者とのつながりが深く、出版社の全点フェアを開催するなど、企画ものの棚が多いのが東京堂のユニークな一面。著者の署名が入った貴重な本をズラリと並べた『サイン本コーナー』や、評論家として名高い立花隆氏の目に留まった本で埋められた『立花隆コーナー』など、枚挙にいとまがない。「著者を大切にしているという自負がありますので、皆様よくしてくださいます。その結びつき、信頼関係を大切にして、今後ともいろいろな企画にチャレンジしていきますよ」(佐野店長)
全国の読書人が注目する書店の挑戦は、まだまだ続く。
一冊一冊の“重み”と“思い入れ”がひしひしと伝わってくる新刊コーナー。
さまざまなサイン本が並べられたコーナー。著者を大事にする東京堂ならでは。
立花隆の著作や本人がセレクトした多種多様な本がぎっしり詰まったユニークな棚も。
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「谷中 花と墓地」
「源氏物語の英語完訳も行った大の日本通・サイデンステッカーが書いた珠玉の随筆集です。夏休み→怪談→墓地という連想からこの本に至りました。散歩のお供にぜひ」
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「山のぼりおり」
「月刊誌『山と溪谷』の連載に、書き下ろしを加えた石田千氏の登山もの。山に登るだけでなく、山から降りることまで描いているのが、このエッセイの妙味でしょうね」
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「超ひも理論への招待」
「著者の苗字から夏を連想……、というのは強引すぎますね(笑)。弱い力、強い力、電磁気力、重力という4つの力をひとつの理論で解決する画期的な説です。ぜひご一読を」
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「甘粕正彦 乱心の曠野(こうや)」
岩波ブックセンターとこちら東京堂書店で二冠を達成!大人気ノンフィクション作家が昭和史の裏側に名を残すフィクサー・甘粕正彦の知られざる素顔に迫る、渾身の一冊。
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「ポジ・スパイラル」
デビュー作『龍の契り』で注目を集め、今やすっかり人気作家の仲間入りを果たした服部真澄の最新作。国際推理小説の名手が、ミステリー仕立てで環境問題を鋭くえぐる!
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「破滅の石だたみ」
『きれぎれ』で芥川賞、『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、『告白』で谷崎潤一郎賞を受賞するなど、文学賞を総ナメにする作家・詩人の町田康が放つ、珠玉のエッセイ集。