18歳で大学入学のために上京して横浜で一人暮らしをはじめたとき、病気になることを恐れたのです。子どものときは病弱でしたからね。病気をふせぐにはしっかり栄養をとって元気にならないといけない、そうだ栄養をとるには定食がよいという発想から、定食屋に行くようになりました。そのうち、定食屋は栄養をとる場所だけでなく、店の人々が織成す、くつろぎの空間であることがわかり、定食屋が好きになったのです。つまりですね、「味もおいしければ店もおいしいのが定食屋」ということですね。
あまり細かいことを言わないのが定食屋好きの特徴なんですよ。人によって求めていることも違いますけどね。それでも私なりの基準を言えば、「リーズナブルな値段」「普通においしい」(この普通というところがポイントですね)「店の人とのほどよい距離感」でしょうかね。「普通においしい」というのは毎日食べて飽きないということ。「ほどよい距離感」というのは、あんまりベタベタされるのも面倒なので、適当にほっといてくれるけど、会計のときに「いつもありがとね」と言ってくれるような距離感ですね(笑)。
定食屋の数は数えていませんが、週のうち半分は、定食系の店でご飯を食べてますね。ラーメン屋は1人ではあまり行かないなあ。もし入っても、ラーメンライスといった定食的なものを食べています。印象に残った店は、今はなき中目黒「とんき」。トンカツ屋でしたが、おやじさんが料理好きで、ご飯が炊きこみご飯でおいしかったし、何しろおやじさんが独特でよかったんですよ。店にビールがないときは、客が表に買いに行くんですけど、そのときはおやじさんが「オレのも買ってきて」と言ったりね(笑)。この店は『定食バンザイ!』でも紹介しています。
これはもう前述したように、定食自体の魅力と店の魅力ですよ。また、地域によってバリエーションが富んでいるのも面白いんです。たとえば、札幌ではキャベツのお新香がよく出てくるとか、四国ではお好み焼屋やうどん屋に、おでんや、陳列棚に入った稲荷寿司やちらし寿司があって、定食的に食べることができるというふうにですね。結局、「食べることは生きること」でもあるので、定食屋にその地域ごとの人々の生き方も見えてくるところがあるんです。
今 柊二(こん とうじ)
定食評論家。1967年生。首都圏をはじめ全国の定食を調査・研究を行う。『定食バンザイ! 』『定食ニッポン』『かながわ定食紀行』など著書多数。現在『定食学入門』(ちくま新書)を書き下ろし中。
『定食バンザイ!』ちくま文庫
冒頭から「定食の聖地」として神保町エリアが登場。都内だけでなく、横浜・大阪・広島・愛媛などのお店も紹介。今さんの定食愛が伝わります。
『定食ニッポン』竹書房文庫
「山手線ぐるり一周 定食巡り」や「北から南へ日本全国 地元食を食べ歩き」など、今さんならではの視点が楽しい全国定食紀行。
『かながわ定食紀行』神奈川新聞
神奈川新聞日曜版に連載。著者の地元・神奈川県の、47の町で出会ったうまい店をまとめた一冊。定食1回分のお値段で、神奈川の定食を食べ尽くした気分になれます。